☆セイリオス殿下の正体

 これから話すことはぼくの推測によるものです〜。
 いいですか〜、みなさん。事が事だけに、ぼくがどのようにしてたどり着いたかを詳しくお話しするわけには行かないようなお話なのです〜。
 なぜか知っているという方も、どうかお声を大きくなさらないで下さいね〜。
 
 家臣として主君に疑念を抱くことはあってはならないことなのですが、セイリオス殿下は、じつは、クライン王家の血を引いていることすら危ういお方です〜。
 殿下はその出生の秘密を除けば、晴れ渡る明知、優れ煌めく麗貌、涼やかに響く言葉とそれに応える熱き行動、陰日向無きクラインへの忠心と、まことに、これ以上王としてふさわしい方はございません〜。
 ぼくも殿下に見いだされたからこそ仕官が叶い、王宮文官という高官に抜擢されたようなものです〜。
 血が濃いいだの薄いだの、ぼくも貴族の端くれですから、血の繋がりだけを大事にしすぎることが、とてもつまらないことだと言うことは身に染みています〜。
 そんなことで、ぼくの殿下に対する忠誠は変わりません〜。
 
 陛下とマリーレイン様との間の第一子がセイリオス殿下です〜。
 お産まれになったはずの赤ん坊はしかし、生まれた直後に死亡していたというのです〜。
 「セイリオス殿下」は生きておられますから、これは、当事者内で極秘裏に、赤ん坊のすり替えが行われたとしか考えられません〜。
 しかしあらゆる言動からして、その事実は、マリーレイン様の御実家であるローゼンベルク家にすら知らされていないようなのです〜。


 
 あの当時、第一王女セレーネ様はすでに他国に嫁ぐこととなっておられ、クライン国王位を継ぐ資格は失っていました〜。
 つまり、23年前、クライン王家は、なんとしてでもローゼンベルクとの絆を保たなくてはならない、政治的な理由があったと考えられるのです〜。
 その有力な確証のひとつに、当時、マリーレイン様は側室であったという事実があります〜。昔からずっと正妃ではなかったんですね〜。
 セイリオス殿下という皇子を架け橋に、ローゼンベルク家はもちろん、クライン王家であるサークリッド家も、お互いに手を組んでより力を伸ばしていこうとした経緯が伺えるのです〜。
 いままでついぞ見せなかった国王陛下のもう一つの顔。このあまりな政略的事実を前にして、マリーレイン様の心中がどのように揺れたか、想像に難くありません。
 国民の期待や実家へのメンツなど、世間的な期待に偽りで応えることで失ったのは、真実の子と全面的な信頼に満ちたふたりの無碍の恋慕。
 そういうわけですから、ようやくにして実ったディアーナ姫様生誕は、負い目を背負ってしまった夫妻にどれほどの光をもたらしたか、はかりしれません〜。

次に進みます〜