見守る瞳


 その王妃は、この世界に生を受けたものではなかったと、歴史書は語る。
 何処(いずこ)とも知れぬ異界より、クラインの地に呼び寄せられた少女であったと。
 ゆえに『(まれ)なる王妃』と呼ばれていた。
 太陽に(たと)えられた笑顔の王妃は、ダリス国民のみならず、故国であるクラインの人々にも愛されていた。
 ダリス国王アルムレディン・レイノルド・ダリスは、王妃について後にこう語ったという。
「我が王妃は、ダリスとクラインに使わされた天人であった。彼女は役目を終え、天に還ったのだ。蒼い翼を取り戻して」



 16年間、ダリスにおいて、賛美と祝福を以って国民から愛されたダリス王妃、メイ・カイナス・ダリスが息を引き取ったのは、彼女がこの世界へ呼び寄せられたといわれる、春も盛り、初めて踏んだクラインの地においてである。
 死の床に横たわった王妃の周りには、ここが隣国クラインであるにもかかわらず、急遽駆けつけた家族が顔をそろえ、夫君であるダリス国王が、固く妻の手を握り締めていた。
 更に、クラインにおいての古いの友人達、クライン女王、政務長官、騎士団長とその部下二人が囲み、わずか33年の生涯を惜しんでいた。
 みな、涙が止まらず、特に、親友であるクライン女王は、金髪の騎士にしがみ付き、少女のように泣き崩れていた。
 ただ一人、涙は無く、窓辺に背を預けた姿で、穏やかに王妃を見詰めていたのは、長くクラインの筆頭宮廷魔導士を勤め、宰相を兼任するほどの国の重鎮。シオン・カイナス。
 不治の病に侵され、余命幾ばくも無いと悟った王妃は、最後の時をクラインで迎えることを望んだ。
 ダリス王は長年の献身に報いる為、それでも渋々、妻をクラインに送ったのだが、王妃の義父筆頭魔導士が、その行列を国境で迎え、そのまま王妃を連れ去った。そして、王宮にある自分の執務室に隣接したこの寝室へ連れ帰ったのだ。
 以来、一年近く、彼は正に心血を注いで王妃の治癒に尽くしたのだが、僅かに寿命を延ばしただけで、王妃は臨終を迎えようとしていた。
 青を基調とした寝台の上で、王妃は儚い微笑を浮かべ、子供達や、友人達一人一人に言葉をかけ、別れの挨拶を済ませた。ただ一人、筆頭魔導士を除いて。
 16年間、仲睦まじく連れ添った夫に、彼女は柔らかな笑顔を向けた。
「アルム、ありがとうね。こんなあたしを、今まで大事にしてくれて…」
 そして、はじめて、筆頭魔導士へ視線を向け、幽かに呟く。
「行こうか?」
 それが最後の言葉であった。
 王妃の命が消えたことを皆が知り、悲嘆のざわめきが起こった時、魔導士の体がゆらりと揺れた。
 朽木が倒れるように、その長身が崩れ折れ、驚いた騎士が抱き起こしたが、その体に既に魂は無く。端正な顔に穏やかな笑みを浮かべたまま、事切れていた。
 
二重の悲嘆が、クラインを被った。

 クライン女王ディアーナ・エル・サークリッドは、親友であったダリス王妃と、その養父である筆頭魔導士の国葬を執り行った。長年クラインを支えてくれた功績に報いて。
 本来ダリスにおいて葬られるべき王妃が、養父と共に眠る事となったのは、ある不可思議な現象の為であった。
 ダリス王は、当然妻の遺体を自国に連れ帰る所存であったが、葬列をしたて、帰国の途につくべく出立しようとしても、馬が動かないのである。
 王妃を乗せた馬車の馬だけでなく、すべての馬が、そこに根が生えたように動こうとしなかった。
 馬まわりの者は困惑し、クラインの好意により、すべての馬を交換したが、やはり、その馬達も動かなくなった。
 鞭で打たれようと、手綱を引かれようと、馬達は沈黙の中に囚われたかのようである。
 奇態な現象に、ざわめき困惑する中、ダリス王の前に、身なりの粗末な一人の少女が現れた。
 金髪碧眼(きんぱつへきがん)の美しい顔立ちをした少女は、ダリス王に向かって、臆することなく言い放つ。
「お姉ちゃんを連れて行かないで。あの人の傍で眠らせてあげて」
 あの人、が筆頭魔導士を表すのはすぐに解った。少女の身なりの粗末さに、どこぞの子供が迷い込んだかと思い、その言葉の無礼さを不快に感じた。
 しかし、家臣に連れて行かせても、少女は何事も無かったかのように、再び王の前に現れ、同じ言葉を繰り返す。
 その奇妙さと、少女の姿が、以前妻に聞いた、王妃が守護する聖樹の聖霊に良く似ている事に気が付いて、王はアリサか、と訊ねた。
 はたして、小さな(おとがい)がこくりと頷く。
「あのね、これは、あたしがお姉ちゃんとした、たった一つの約束なの。お姉ちゃんはこの国に眠りたいの。もう、あの人と離さないであげて」
 いくら聖樹の聖霊の言葉でも承服(しょうふく)しかねた。
 16年の間、誰よりも妻を愛し、妻もまた自分を愛した。ダリスへ連れ帰り、墓を立て、いずれは自分もその横へ眠る。これは夫婦として当たり前の事である。
 それを、喩え故国であり義父であるとしても、他国で別の男の横になど眠らせる訳にはいかない。王妃がそんな事を望むはずが無い。
  頑なな王に、少女は尚も言い募る。
「お願い。連れて行かないで。これ以上お姉ちゃんを不幸にしないで」
 聞き捨てなら無い言葉に、王は不快を露にした。
 妻が不幸であったはずが無い。彼女は常に家族や国民から慕われ、王妃もまた惜しみなく国に尽くした。そして、自分達夫婦の(むつ)まじさは、他国ですら賛美されるものなのだ。
「私は妻を、生まれた世界を忘れるほど、幸福にしたと自負している」
 精霊は、渋々頷いた。しかし、その緑の瞳は、王に据えられたままであった。
「そうだね、お姉ちゃんは幸せだよって言ってた。あなたや、子供達を心から愛してたよ。
でもね、魂の深いところで、あの人と繋がっていたの。本当は離れたら駄目だったの。だけど、あたしとあなたが引き離したんだよ…」
 何時しか少女は泣いていた。
「連れて行ったらもう駄目なの。お姉ちゃんが悲しむの。だってお姉ちゃんお月様見れないでしょう?月の光は嫌いでしょう?あたしたちの所為なんだよ…」
 王は少女に屈み込み、さらに2.3言葉を交わした。
 ついに王は折れ、王妃の棺を、神殿に安置された筆頭魔導士の横に並べた
 ダリス王家の墓には、王妃の遺髪が納められることとなった。




 月日は流れる。
 悲しみに沈んでいたクラインも、その痛手を少しずつ(いや)していた。
 逝きし者は思い出となり、生者は日々を過ごしていく。
 シルフィス・セリアンは、思春期に性別を分けるアンヘル種族の中でも、特に稀な、『分化しない者』である。
 だがこれは正確な表現ではない。
 『分化を止めた者』というのが正直なところだからだ。
 (わず)かに女性になりかけたまま、彼女の変化は止まっていた。
 唯一愛した男の死によって。
 人々は、彼女の美貌(ゆえ)に、この悲劇を惜しみ、大いに同情を寄せた。本人には、煩わしい限りであったが。
 魔道に長けたアンヘルでも特異な、魔法を使えない者であった彼女は、分化を止めた為か、僅かな期間で膨大な魔力に目覚め、騎士団に籍を置きながらも、既に魔導士として最高位の、緋色の肩掛けを拝領していた。
 また、創造魔法の第一人者としても、名を()せており、これは、不慮の事故でこの世を去った、唯一の恋人、緋色の魔導士、キール・セリアンの遺志を継いだのである。
 抜きん出たその魔力は、師匠であった今は無き筆頭魔導士をして、『己が控え』と言わしめるほどであった。
 その言葉通り、女王のたっての願いにより、次期筆頭魔導士を拝命するに至っている。
 初夏のある日、シオン・カイナスの執務室で、彼女は仕事を引き継ぐための、必要な書類を片付けていた。
 自分が使う執務室へ、移動させるためである。
 書類以外の部屋にあるすべての物は、動かされることは無い。
 前筆頭魔導士が、生前使用していたままにここは保たれる。
 生涯妻を(めと)らず、自宅すら持たず、彼はこの執務室と寝室で生活していた。
 軽妙な言動で王宮の人々を困惑させた魔導士は、同時に皆から信頼され愛されていた。
 雑役の者は窓辺の鉢植えに水を欠かさないだろう。小者(こもの)達はこの部屋に埃を積む事は無い。庭師は、彼が丹精していた花々を枯らさないように苦心するに違いない。
 其処此処(そこここ)に、彼が居た思い出が生きている。
 主だけが居ない部屋。
 整頓されているのか乱雑なのか判らない書棚には、魔法薬と共に、紅茶の茶葉が(びん)に詰められ、もう二度と芳醇()ほうじゅんな香りを醸し出す事は無い。
 ひょっこり寝室から魔導士が顔を出すような気がして、シルフィスは喉の奥が熱くなる。
「シオン様…本当に、貴方はこれで良かったのですか?」
 こらえきれない涙が、一筋頬を伝う。
 ふと、不可思議な気配を感じ、部屋の隅に目をやると、其処に一人の子供が立っていた。
 金髪碧眼の、アンヘル族の子供。その姿には見覚えが合った。
 かつて、メイと共に、ダリスの暗雲を晴らすために旅立った子供である。
 17年前と変わらぬその姿。精霊を見る彼女の目は、その子供が人外の者であると看破(かんぱ)する。
「聖樹の聖霊…アリサ、ですね?」
 子供は滑るようにシルフィスの前に進むと、おもむろに口を開いた。
「あなたは知っていたんだね。お姉ちゃんとあの人の事…」
 いきなりの質問に、驚くことも無く、彼女は微笑んで頷いた。
「何が知りたいのですか?聖樹の聖霊よ、今ならばすべてに答えられると思います」
 静かに語りかけると、あらぬ方から声がした。
「ならば、わたくしにも、教えてくださいな」
 今度は驚いて目を上げる。
 部屋の入り口に、彼女の主君が立っていた。
「女王陛下…!?」
 慌てて臣下の礼をとろうとする、騎士上がりの次期筆頭魔導士に、気さくな女王は身振りで止めさせる。
「今日は、メイと三人で親友同士だった頃の、ディアーナに戻らせてください」
 扉を閉め、すとんとソファーに座ってしまう。
「さぁ、お話ください、ですわ」
 少女の頃の口調で、肩をすくめて見せる。シルフィスはその姿に微笑む。
「はい、姫」
 次期筆頭魔導士の返事に、嬉しげに頷いた女王は、きょろきょろと周りを見回した。
「聖樹の聖霊が、お出でですの?」
 女王には見えないらしい。
「ここにいるよ…」 
 言葉と共に、女王の前に、見覚えのある子供の姿が現れる。
「まあ、あなたですのね。お久しゅう、聖樹の精霊様。以前お会いしましたわね。この国の女王、ディアーナですわ」
 立ち上がって優雅な礼を見せると、ぼんやりと立つ子供の手を取って、いそいそとソファーに座らせる。そして再び腰を下ろし、シルフィスへ顔を向けた。
「お茶は出せませんが…」
 視線に(うなが)されて、詫びを言いつつ向かい合う椅子に座る。
 女王は首を振った。
「この部屋で、シオン以外の人が()れた紅茶など、飲みたくありませんわ」
 手まめな前筆頭魔導士の紅茶は、絶品と賞され、女王の数少ない息抜きであった。
「メイも、これが飲みたかった、と喜んでいましたわね…」
「はい…」
 暫くは紅茶を口にできそうに無い、シルフィスは小さな水屋の中に並べられた茶器へ目を()った。
「この一年近く、楽しい日々でしたわね。メイとシオンが並んでいると、どうしてあんなに賑やかなんでしょう?」
 ダリスの隊列から奪い去るようにして、魔導士が王妃を連れ帰った日。王宮は一気に華やいだのである。
 寝室に寝かされた王妃は、起き上がる事も(まま)ならぬほどであるにもかかわらず、その威勢と向うっ気はそのままで、前筆頭魔導士との軽口の応酬に、見舞いに訪れた人々から笑い声が絶えることは無かった。
 気分の良い日には魔導士に抱えられて庭園を散策する姿が見られ、其処彼処で気さくに声をかけて人々と話をし、時には女王の茶会に列席することもあった、。
 軽い口調でからかう前筆頭魔導士を、相変わらずの威勢良さでやり込める王妃の姿が際立って、女王は、夭折(ようせつ)した夫のセイリオスがしていたように、そっと額を押さえている自分に気がついて、苦笑したものである。
「シオンの紅茶とアイシュのケーキ。そしてメイの笑顔…まるで、16年の年月が、無かったかのようでしたわ」
 しみじみと語る女王にシルフィスも頷く。
「取り戻していたのですよ、二人は…16年分貯まっているから、幾ら喧嘩してもし足りない。メイは私にそう言っていました。亡くなる前日のことです」
 女王の笑みが哀しげに(かげ)る。自らを嘲るような自嘲の笑みに、次期筆頭魔導士は心が痛む。
「本当に、メイには…いえ、二人には。幾ら謝っても、感謝しても、足りない位ですわ…」
「姫…」
 菫色の瞳が、ひたとシルフィスに向けられる。哀しげな微笑はそのままに。
「シルフィス、貴女も色々と聞いていますでしょう?セイルが亡くなった頃のこと」
「あまり詳しくは…私はキールと共に田舎に居ましたから…」
 小さな吐息が漏らされた。
「そうでしたわね。貴女もあの頃は大変でしたわね…」
 恋人の緋色の魔導士は、事故で受けた傷から、回復することは無かった。
「いいえ、最後の時まで一緒に居れました、満足です」
 そう微笑む元騎士は、未婚のまま恋人の家に養女となり、同じ姓を名乗っている。女王が、凛々しい生き方だと以前感心したものである。
 かつて、夢を語り合った三人の少女達は、みな初めての恋を全うできなかった。数奇な運命の下で。
 再び女王が吐息を漏らした。
「わたくし、どうしても解らないのです。何故、メイはダリスへ嫁いだのでしょう?…いいえ、どうして、と言う方がおかしいですわね。確かにあの時は、本当に大変でしたのよ、わたくしもシオンもそしてクラインも…メイが嫁ぐことで、すべては一気に変わりました」
 前皇太子セイリオス・アル・サークリッドが暗殺されたのは、16年前の冬の日である。
 シオン・カイナスが手配していた護衛の目を掠め、単身街に出て、兇刃(きょうじん)に倒れたのでだ。
 懸命の治療も効を奏さず、数日床に伏して、あっけなくこの世を去った。
 皇太子の訃報(ふほう)を聞いて、元々病弱で、長く病の床にあった国王は、後を追うように崩御(ほうぎょ)し、唯一残った王族として、末姫のディアーナが女王の地位に就いたのである。
「当時、わたくしを廃嫡して、有力な貴族の子弟と(めあ)わせ、その人を王位に就けるべきだと言う声が、元老院でも有力でしたの。長いクラインの歴史でも、女王は稀でしたから。私が頼れたのは、シオンだけでしたわ」
「そうだったんですか…」
 薄紅色の髪が静かに頷く。
「でも、シオンはセイルを守りきれなかった事で、糾弾を受けていました。それに、皇太子という後ろ盾を失い、政治家としても苦しい立場に追い込まれていましたの」
 前筆頭魔導士の叡智(えいち)と機転、そして行動力は、元老院の長老連には、危険視されていた。最大の失策をしでかした、この機を逃さずに、彼を排除しようと、糾弾は熾烈(しれつ)を極めたという。
「シオンはあのまま王宮を追われてしまうのではないかと、寄る()も無いわたくしは、自分の未来に震えていましたわ。まだ王位は空位のまま、クラインもまた揺れていたんです」
 そんな時、即位を果たし、国を平定した新ダリス国王が、、当時緋色の魔導士であったメイ・フジワラを妻に欲しいと申し込んできたのである。
 前ダリス王が、魔法を乱用して国を荒廃させていた当時、単身ダリスへ潜入し、その野望を砕いて国を救った彼女を、新王が見初め、救国の英雄を王妃にと望んだのだ。
 彼女が、筆頭魔導士の婚約者であることを承知の上で。
「わたくし、シオンはメイと共に、クラインを捨てると思っていましたわ。ですから、メイを自分の養女にして、ダリスへ嫁がせると聞いた時…シオンを非難してしまいましたの…身を裂かれるような思いをしていたでしょうに…」
 メイ・フジワラは、メイ・カイナスとなって、ダリス王に(めと)られた。
 一介の、素性も定かではない魔導士よりも、クラインの大貴族、カイナス家の傍流(ぼうりゅう)としてのほうが、王に嫁ぐ身分が釣り合う。メイが、身分のことで肩身の狭い思いをすることは無かっただろう。ただ、婚約者を臆面も無く養女にして見せた前筆頭魔導士は、鉄面皮(てつめんぴ)(ささや)かれた。
 噂は未だに囁く。眉を(ひそ)め声を落とし、敏腕政治家の数ある汚名の一つとして。
 シオン・カイナスは、自分の地位の安定の為、己の女をうまくダリス王に取り入らせた、と…二人の葛藤(かっとう)がどれほどのものだったのか、噂からは聞こえない。
「シオンは名前だけでも、メイにカイナスを名乗らせていたかったのかしら…とにもかくにも、メイが娘として嫁いだことで、シオンの発言力は格段に強まりましたわ。他国の王の外戚(がいせき)の父ですが、外交的にも当時のダリスは、王位を空席にしたクラインに比べれば、はるかに強かったのです。元老院も、何も言えなくなりましたわ」
 そして、ディアーナを女王に据え、前筆頭魔導士は、存分にその政治的な手腕を発揮した。国内を平定し、貴族たちを束ね、女王を助けて不穏な芽を摘み取っていく。
 そこには鋭利な政治家としてのシオン・カイナスが居た。何かに()かれたかのように動き続ける男であった。
 遊び人のすちゃらか魔導士が戻ってきたのは、10年が過ぎる頃である。
「シオンが居なければ、今ごろどうなっていたか…アークを無事に産む事さえできなかったかも知れません」
 兄妹として共に在りながら、セイリオスとディアーナは、何時しか愛し合っていた。
 忘れ形見を身篭(みごも)ったことを機に、ディアーナはセイリオスの素性を明かし、彼を夫と思い定めて、寡婦(かふ)を貫く。
 唯一残された一粒種、アークリオス・アル・サークリッドは、先日、無事に立太子の典を済ませている。
 現皇太子を全力を持って守護してきたのも、やはりシオン・カイナスであった。
「今クラインが在るのは、すべてメイとシオンのお陰ですわ。でもやはり、解らないんです。あの当時の二人の結びつきを考えると、何故メイがダリスへ行くことを選べたのか、シオンがメイを手放せたわけが…二人で決めた事だと、メイは言いましたわ。だから気にするなと、笑っていましたけど…」
 微かに、女王の肩は震えていた。
「やはりわたくしが不甲斐無(ふがいな)かった所為(せい)なんでしょうね、わたくしのため、シオンはクラインを捨てられず、シオンを助けるために、メイはダリスへ行った…」
 シルフィスは、傾き始めた陽光が射し込む窓辺へ目を遣った、小柄な体を更に小さくするように(うつむ)く女王を見るのが辛かったから。
「クラインのために、二人を犠牲にしたんですわ…」
「それもあるけど…あたしが頼んだの…来て欲しいって…」
 初めてアリサが口を開く。
 二人は驚いて、子供へ顔を向けた。
「どうしてですの?アリサ」
 菫色(すみれいろ)の瞳に見詰められ、翡翠(ひすい)の瞳に頷かれ、アリサが言葉を続ける。
「あのね、あたし、木としてはとても弱かったの。ダリスには、あたしが育てるだけの力が、地面から消えていたの。あのままだと枯れていたの。だからお姉ちゃんに助けてって言ったの」
 聖樹は大地の守護。女神の力が宿る霊木。国を守る(いしずえ)の一つでもある。
 かつて、ダリスは、この聖樹の大木から大地の魔力を吸い上げ、武器に付加するという魔法を乱用し、国内は荒廃していった。
 枯れ果てながらも、倒れることも許されない聖樹の聖霊の望みを受け、その大木を破壊したのは、アリサに導かれたメイ・フジワラ。
 これによって前ダリス王の野望は砕かれ、アルムレディンは王位を奪還(だっかん)できた。
 ダリスの大地は、解放だけではなく、更にメイをも望んだのか…
「お姉ちゃんは、毎日いっぱい魔力を注いでくれたよ。あたしはお姉ちゃんの魔力で育てられたの。枯れないで済んだの」
 聖樹が枯れるなどというのは、あってはならないことである。どのようなことになるかは、以前のダリスを見れば明らかであろう。聖樹が枯れかけただけで、ダリス国内は荒廃し、天候も乱れ、太陽はその姿をあらわすことは無くなった。
 もし、次代の若木すら枯れてしまったとしたら、その影響は、ダリスだけではなく、近隣の国々も平穏なままではいられなかっただろう。
 ダリス王妃が、聖樹を守護するという意味が、初めて解った。正に王妃はその膨大な魔力を以って、聖樹の命そのものを守っていたのだ。
「メイは、世界すら守っていたのですね…」
 呟く女王にシルフィスが答える。
「ええ、そして、遠く地を隔てたクラインに在りながら、シオン様はそのメイを守り続けてきたのです」
 静かな眼差しが次期筆頭魔導士へ向けられる。
「話して下さいませ、貴女のお話を…」
 シルフィスは、ちょうど女王の後ろにある、寝室へのドアに目を遣った。
「姫は、魂分けの魔法をご存知ですか?」
 不穏な言葉に女王は眉を寄せる。
「それは禁呪です。大変な魔力と命すら使う大魔法だと聞いています…まさか?」
 視線は動かさず、シルフィスは頷いた。
「二人は、その魔法を()(おこな)っていたのです。メイがダリスに()す前に…二つの魂を解け合わせ、再び二つに分け。その日から、二人は、一つの心臓で繋がったのだそうです。互いの心臓は一つの鼓動を刻みつづけたのだそうです」
 死の前日、入れ替わり立ち代り訪れる見舞い客や、メイの家族が立ち去った後、シルフィスは二人に呼ばれたのだ。
 治療時間ということで人払いをされているのを気にする弟子に、悪戯(いたずら)好きな前筆頭魔導士は、酒瓶(さかびん)を振って、これが今のところの薬だと(うそぶ)く。実は何の治療もしていないのだと言われて、彼女は驚いた。
 メイの病には、何の薬も効くはずが無い。なぜなら、メイは病ではなく、命の灯が消えかけているからだ、そしてそれは、自分も同じだと魔導士が微笑む。
 二人は同時にこの世を去るのだ。
 たとえ二人で納得して、二人で定めた道とはいえ、生木を裂くように別れねばならなかった恋人同士は、最大の禁呪を使って互いの命を重ねた。決して離れぬように。
 16年は良く持った方だ、さすがに俺達はしぶといらしい。そういって笑ったのは前筆頭魔導士。
 5年持つかな?程度の自信だったそうだ。
 それをいい加減だと笑いながら、メイは満足気であった。
 シルフィスには、まるで心中のように思え、涙が込み上げた。


 寝室から視線を戻し、次期筆頭魔導士は女王に微笑む。
「シオン様と共に居るメイは、本当に嬉しそうで、それを見詰めていらっしゃるシオン様の、あんなに穏やかな微笑みははじめて見ました」
 そう、だからこそ、シルフィスは二人の死を実感したのだ。
 明るく元気そうに笑っていながら、どこか儚いメイの笑顔。そして、穏やかな眼差しの前筆頭魔導士。二人の瞳から、その特徴であった、強く不敵とも言える命の(きらめ)きが消えていた。ただ穏やかに、まるで月を映す湖水の(おもて)のように、静かな光が(たた)えられている。
 シルフィスは何も言えず、ただ涙するだけであった。
 そんな弟子に、魔導士が困ったように肩を竦める。
 長年連れ添った夫婦でも、せーので同時に死ぬなんてできるはずが無い。こうなってむしろ嬉しいと、ダリス王妃ではなく、メイ・フジワラが笑う。
 どんなに隔たっていても、二人は一つの鼓動の下、常に一緒だったのだから、悔いは無い。自分の使命も終わった、今は二人で居る、これで満足だと。
 誰に言うつもりも無かったが、シルフィスには知っておいて欲しかった。できればディアーナにも話してくれると助かる。直接言うのは辛いから。
 親友に向ける最大の信頼を受けて、シルフィスは臨終の場に(のぞ)んだ。
 ダリス王妃が、魔導士を見て『行こうか?』と言った時、彼が柔らかな笑みで幽かに頷いたのを、たった一人の弟子だけは見守っていた。涙に霞む翡翠の瞳で、自分だけはシオン・カイナスの最後を看取(みと)ろうと。

 二人の言葉が思い出された。
『アルムには、悪い事したと思うわ。実際ひどい話よね。16年だまくらかしたのよ。心の中に別の男抱えたままで、いい奥さんの振りなんてしてさ…メイ・カイナス・ダリスは、精一杯自分の人生を生きたわ家族を愛し国を愛し…でもね、あたしはシオンの傍に本当の自分を置いていったの。アルムが知っている奥さんは、本当のあたしじゃないの』
 心を偽らないメイの表情は穏やかだった。
 魔導士がにやりと笑う。
『当たり前だろう、でなけりゃ、目の前で、何時までも意地汚くお前さんの手を握り続けているあの男を、俺が笑って許す訳無いぜ』
 ダリス国王は、妻の容態が悪化したとの知らせに、政務を放り出して先日からクラインに来国していた。そして、一日の大半を、妻の下で手を握って励まし続けている。
 鴛鴦夫婦(おしどりふうふ)として、近隣に聞こえた風評通り、実に仲睦まじい様子だが、そんな王の直向(ひたむき)な姿を道化にすることで、魔導士の精神は保たれていたのかもしれない。
 焼きもち焼きだと笑うメイに、渋い顔をしてみせる魔導士が、少しだけ琥珀(こはく)の瞳にまじめな光を宿す。
『シルフィス、一つ頼まれてくれないか?俺達が死んだら、あいつはメイの体をダリスに連れて帰ると思う。まあ、どーせ死んじまっているんだから、どこに埋められようとどうでも良いんだがな、できれば、俺の髪を一房なりと、こいつの棺桶(かんおけ)に入れてやってくれないか?』
 そうすれば、おっちょこちょいのメイの魂が、うっかり体に付いて行ってしまっても、戻ってくるとき迷子にならずに済むだろう。茶化して締めくくり、当の本人から、馬鹿にするなと文句と枕が飛んでくるのを、魔導士は嬉しそうに受け止めていた。
 死ぬなどといいながら、そんな様子は欠片も見せない二人の掛け合いに、シルフィスもまた笑いながら、新たな涙が込み上げてきた。


「シオン様の遺言を、実行できそうになくて、本当にどうしようかと思いました」
 ダリス王は、王妃の遺体を神殿に安置しようとはしなかった。シオン・カイナスの隣に並べるのが業腹(ごうはら)だったのである。
 そして、片時も妻の傍を離れず、悲嘆(ひたん)に暮れる姿は、近習(きんじゅう)の涙を誘った。
 王の心を乱すまいとする近習達によって、たとえ友人といえども棺に近寄ることは侭ならず、シルフィスは遺言を守れない事を、幾度も魔導士の遺体に()びた。
「王様はね、自分とずっと一緒に居てもらうつもりだったの。お姉ちゃんを、あの人のそばに置いていきたくなかったの」
 アリサがぼそりと呟く。二人は頷いた。夫としての気持ちならば、当然だろう。養父とはいえ、元々は婚約者であった男と共に、自分の妻を並べるなど、心穏やかな筈が無い。
「ダリス王を止めてくれたのは貴女ですね?アリサ」
 奇態な現象を思い出して、女王が言う。
 金色の頭がこくんと揺れる。
「お姉ちゃんが、あたしに頼んだたった一つのことだったから。王様とてもお姉ちゃんを愛してた。あの人をすごく嫌ってた。でもね、やっと解ってくれたよ。もう離しちゃいけないんだってこと。お姉ちゃんがお月様を見れないって言ったら、解ってくれたよ」
「お月様を見れない?どういう事ですの?」
 女王には不思議だった。メイは(こと)のほか月夜を好んでいたからだ。時折ベランダや庭園で、月を愛でる二人を見かけたものである。
 魔導士とグラスを傾け、月見酒に誘われたこともしばしばであった。
 そのメイが、月を見れない、などということがあるのだろうか?
「あのね、ダリスに居た時、お姉ちゃんは絶対お月様を見なかったの。月の光は嫌だって、蒼い蒼い月の光を見ると、死にそうになるって」
 二人は初めて、ダリス王妃のいや、メイの涙を見た気がした。明るく強い笑顔の陰の、意外な(もろ)さを見た気がした。
 胸を押さえて(うつむ)いた二人に、真摯(しんし)な光を湛えた新緑の瞳が向けられる。
「あたし、お姉ちゃんが本当に幸せだったのか知りたいの。お姉ちゃんは何時(いつ)も、幸せだよってあたしに言ってくれたけど、本当に好きな人と離されて、愛している人と別れて、本当に幸せだったのか、あたしには解らないの…」
 奇妙な光景であった。
 本来ならば、人の生死や感情など、かかわりもしない筈の聖霊が、一人の女性の幸福を案じている。
 しかし、二人は自然に受け止めていた。
 アリサもまた、メイの子供であるのだ、メイの魔力と愛情によって育てられた子供は、母親が本当に幸福だったのか案じている。自分の所為で、不幸な人生を送ったのではないかと(おび)えている。
 女王はそんなアリサに、柔らかな微笑で見詰め返した。
「わたくしは、メイが幸せだったと思いますわ」
「はい、私もそう思います」
 子供はかすかに首を傾ける。
「本当?」
 女王はしっかりと頷いて見せた。
「ええ、メイは、貴女や家族やダリスの国民から愛され、そして、メイもまた、精一杯の愛情で答えていたのです。これは何よりも強い絆です。彼女の愛に、嘘偽りは無かったでしょう。昔からそういう人でした。そして、彼女の中にはシオンの愛が、揺ぎ無く常にありました。こんなにも愛に包まれた人が、不幸であった筈がありません。わたくしには、稀に見るほど幸福な人生だったと思えますわ」
 きっぱりと言い切る女王に、子供は少し安心したように表情を和らげる。
「そうなんだ…幸せだったんだ」
「ええ、そうです。それに、私達から言わせれば、愛する人と同時に天に()されるなんて、幸せ以外の何ものでもないんですよ」
 冗談めかした次期筆頭魔導士の言葉に、
 寡婦(かふ)である女王はまったくだと頷く。
「本当にそうですわ。(うらや)ましい位です。さすがはシオン。女心の押さえどころを、心得てますわね」
 初めて、執務室に笑い声が漏れた。
 明るく笑う二人の前から、聖霊の姿が薄れていく。
 最後に光の残滓(ざんし)が、『ありがとう』と言った気がした。




 太陽は西の尾根に沈み始めている。
 初夏の黄昏(たそがれ)は、まだ暫く闇をもたらしはしないだろう。
 女王と次期筆頭魔導士は、静かな墓地の小道を歩いていた。
 少女の頃に戻って二人きりのお忍びである。
 思い出を語り合いながら、緩やかな丘を登る。
 シオン・カイナスとその養女の墓は、王家の墓所に程近い丘の向うにある。
「シルフィス…わたくしは、メイは幸せであったと信じていますけれど。シオンはどうだったのでしょうね?それだけが気がかりなんですのよ」
 不意に漏らされた呟きに、シルフィスは肩を竦める。
 国に尽力し、無私の人生を送った男を、どう表して良いか解らなかった。
「さあ、本心は微塵(みじん)も見せないお人でしたから。常に飄々(ひょうひょう)と、風のように駆け去った…そんなお人でしたね」
 シオン・カイナスを表すには、(とら)えどころの無い言葉しか浮かんでこない。
「でも、あの方の口癖は『結果オーライ』でしたから…何事も結果を出してから評価に値する。この結果は、満足のいくものだったのではないでしょうか?」
 金髪の元騎士の言葉に薄紅色の髪が揺れる。
「そうですわね…シオンのお陰で、クラインは平和になりました。昔のような表面だけの取り(つくろ)いでは無く、本当に平和に…かつて、セイルとシオンが夢見た理想を、現実のものとして、わたくし達に残してくれたのですもの…そして、シオンはメイと眠っている…もう離れることは無いのです」
 菫色の瞳には穏やかで明るい光が宿っていた。
「残った者にとやかく言われるのを、シオンは好まないでしょうね、結果を見てくれ。シオンならそう言うでしょうから…やはり、幸せだったのだと思いますわ…」
「はい…」
 女王はくすりと笑う。
「キールがいたら、何と言ったでしょうね?」
 不意の名前に、シルフィスは微笑む。
「相変わらずのロマンチストだと、きっと言うと思います」 
 そう答えて、笑みを含んだ視線を空へ向けた。



 木立を抜け、黄昏の空が広がる。
「母上、シイル?」
 不意に頂から声が掛けられ、顔を上げた二人は、思わず息を飲んだ。
 空色の髪の皇太子が、純白の衣を(まと) って嬉しげに手を振っている。その後ろには、落ち着いた色合いの衣を纏った、夜空色の髪が並ぶ。
 16年の歳月が霧散(むさん)する。
 並び立つ二つの空の色。紫水晶(アメジスト)の瞳と琥珀(こはく)の瞳。
 咽の奥に熱いものが込み上げた。
 同じように目頭を押さえた女王の下へ、純白の皇太子が駆け寄ってくる。
「母上、どうなさったのです?こんなところに二人きりで」
 呪縛(じゅばく)は解け、純白の皇太子は女王の世継(よつ)ぎとなって微笑んだ。
「アーク…貴方こそどうしてここに?またお忍びですか?」
 母の顔に戻って、女王が言うと、空色の皇太子は首を(すく)めて見せた。
「私はお墓参りです。ちゃんとガゼル達を入り口にまたせていますよ。母上達こそ、お忍びではないのですか?」
 言い返されて、今度は女王が肩を竦める。
 二人は裏側からこっそり入ってきたのだ。
「しょうがないですわ、みんなには内緒にしてくださいませね。でも、何で今日、お墓参りなど?おばあ様の命日も、まだ先だったでしょう?」
 皇太子が丘の上を振り返る。夜空色の少年が、屈託の無い笑顔で手を振ってくる。その面差しは、亡きダリス王妃に良く似ていた。
「アスターが、どうしても今日、母君の墓参りをするのだと言うので、一緒に来ました。なんでも、聖樹の聖霊を見たからと。私も、父上のお墓に参ってきたところです」
 幼い頃から強い魔力を持った、ダリスの皇太子が、これから二年間、魔法研究院で空色の髪の皇太子と共に魔法を学ぶ事になったのを、次期筆頭魔導士は(ようや)く思い出す。
 母を見舞いに、ダリス皇太子は頻繁(ひんぱん)にクラインを訪れていた。同い年の皇太子達は、その間に親睦を深め、打ち解け合っているようだ。
「そうですの、わたくし達はこれからですわ。メイとシオン、それにセイルと、ゆっくりお話しましょう」
 母の言葉に微笑んで、皇太子は優雅な礼をしてみせる。
「では、私はこれにて」
 (きびす)を返して丘を駆け登る。丘の上で同じように礼をして見せた夜空色の皇太子は、駆け戻ってきた友人と共に、走り出す。
 黄昏の空に、少年らしい笑い声が響いた。
 二人が友人から親友と呼び名を変えるのも、そう遠い日ではないだろう。
 空色と夜空色の髪が、再び並び立つ。
 声も無く立ち竦んでいた次期筆頭魔導士は、頬を一筋涙が伝っているのに気がついた。
 指でそれを(ぬぐ)い、女王の微笑みに顔を赤らめる。
「驚きました。あんな風にお二人で並ばれると、思っていた以上です…」
「わたくしも、二人を並べて見る都度に、心が揺れますわ」
 懐かしい光景を見た感動に、懸念(けねん)が影を射す。
「ダリス王は、お気づきなのでしょうか?」
 女王はそっと首を振った。
「余計な詮索(せんさく)は止めておきましょう。母の死も乗り越えられる強い少年です。あの屈託の無い笑顔は、メイとアルムレディン様が(はぐく)んだものです。どんなことがあっても、乗り越えていくでしよう。わたくし達は見守るほかありませんわ。何事も、結果でしてよ、シルフィス」
 では、二つの空の色はクラインの中から出て、より大きな世界で再び並び立つのだ。クラインとダリスという国となって。
「さあ、早く参りましょう。メイ達が待ちくたびれていますわよ」
 明るい声音に促され、シルフィスは微笑んで歩き出した。


 黄昏はやがて夜の(とばり)にその席を譲る。
 太陽は夜の腕の中で(いこ)うのだ。
 その笑顔を太陽に(たと)えられた女性が、夜空色の髪の魔導士の腕の中で、眠り続けるように。







終劇