母の苦悩
メイ・カイナスは悩んでいた。
何故ならそれは、多少の罪悪感と多少の愉悦を孕み、時として密かな楽しみにさえなってしまうのが、また、なんとも申し訳ない気にさせる。
実は前々から都度都度に直面してきた事なのだが、しかし、これを自分が口に出してしまったら、かなり問題があるのではないだろうか?
「でもさ・・・つい思いついちゃうんだもん。しかたないよね・・・」
呟きつつ投げかける視線の先には、すやすやと眠る二人の子供。
双子の兄妹、アスター・カイナスとミカエル・デイジー・カイナス。
我ながら、なかなか言い名前だと思う。
どちらも夫の名である「シオン」を「紫苑」に変換して、その花の名前を英語読みにして付けたものだ。
自分がつけた、夫には文句は言わせなかった。
もちろん彼も気に入ってくれている。
地球生まれの双子は、今ではすっかりクラインの国民だ。自分が異世界に生まれたなんて、憶えてもいないだろう。
じんわりと浮かぶ笑みに、ふと一人ごちる。
「・・・ごめんね・・・こんなかーちゃんで・・・」
自分の心に、嘘偽りは無い。心から愛しているし慈しんできた。
この愛情に間違いも翳りもない。
それには自信がある。
自分は子供を本当に愛している。
たとえばそれは、夫の浮気癖が再発しようと、他に隠し子がわんさか出てこようと。自分が夫を叩きのめしはしても、別れることはないだろうと確信しているのと同じだ。
しかし、自分が『あんな事』を思い浮かべているなんて教えたら、ひょっとしたら大きな亀裂の元になるかも知れない。
事態はそこまで大きいような気もするのだ。
第一本人に悪い・・・
何かにつけてふと心に浮かぶ『それ』は、まあ、このワーランドに居る限り、誰にも真相がわかるはずが無いのだけれど、それでも彼女を複雑な気分にさせる。
考えてみれば、『これ』を知っているのは、地球からここに一緒にやって来た弟ぐらいしか居ないだろう。
もしかすれば弟だけは、この気持ちを共感してくれるのではなかろうか?
しかし、だからと言って、弟が目の前で『これ』を口にだしたり、あまつさえ笑い転げようものなら、多分自分は怒るだろう。
だから、『これ』は、一生心の中に秘めておかなければならないだろう。
メイはため息を洩らしつつ、子供たちに歩み寄った。
自分たち夫婦が、そのまま小さくなったとよく言われる子供たち。夫と生き写しの息子の蒼い髪に指を滑らせ、再びため息を洩らす。
むずむずと笑みを作る口元に、やはり罪悪感がほんの僅か心を掠める。
―――でもね・・・やっぱりね・・・―――
「つい連想しちゃうんだよね・・・」
その先は、かろうじて口にのぼりかけるのを堪える。
―――銀座アスター―――
ちゃんちゃん