らしく、いきましょ!
 ねばーぎぶあっぷ、ですの。
 ガンバリますわ。
 怖いくらいドキドキしていますの。
 でも。
 わたくし負けませんわよ。

 不機嫌。不活発。不健康。そしてとどめの無愛想。
 口を開けば慇懃無礼。言葉の一つ一つで、棘と毒矢がたっぷり刺さってきますわ。
 もちろん、誰の事かお判りですわよね?
 ええ、キール・セリアン。
 最年少で、最高位の魔導士に与えられる緋色を拝領した、魔法研究院の秀才で、なんとアイシュの双子の弟。
 まあ、アイシュもああ見えて、難関の任官試験を17歳で軽〜く合格している天才ですから、頭の出来具合だけなら、なるほど双子だわって納得できるんですのよ?
 でも、やっぱり、あの性格の違いは不思議でたまりませんの。
 まるで正反対。
 アイシュが誰にでも好かれるのに対して、回り全部を敵に回しているのがキール。
 アイシュが誰にでも優しいのに対して、いつもツンケンして嫌味ばかりなのがキール。
 ほんとうに、あの口の悪さだけはどうにかならないですかしら。
 メイは初めて会った時。『山猿』って言われたんですって。
『勝手にこの世界に引っ張り込んでおいて、パニクってるあたしによ。頭が悪いんじゃないかとか、山猿だとかってさ〜少しは謝ったらどうなんだって思わない?』
 と、以前聞いた時、怒っていましたわ。
 わたくしにだって、第一声は『どけ』でしたものね。
 ……思い出すと、やっぱり腹が立ちますわ。
 この間だってそうですの。
 崩れた本の下敷きになっているところを、笑ってしまったのは悪かったけれど、せっかく片付けを手伝ってあげたのに、邪魔だから勉強でもしていろって本を渡してきましたのよ。
 しかもそれ、絵本ですのよ。
「本を読んで、勉強する事ですね。少しは王女らしくして頂かないと」
「絵本で勉強する王女がどこにいますの」
 そんな抗議はどこ吹く風。
「では、俺はこれで」
 さっさと本を片付けて行ってしまったわ。
 本当に本当に、腹が立ちましたのよ。
 腹癒せに、背中に絵本投げつけてやろうかと思ったけれど、それじゃあ本が可哀想ですし、アイシュも泣きますわよね。
 立派な王女になる為には、寛大な心も持たねばなりませんわ。
 だから、ちょっと読んでみましたの。
 その本は、絵本といっても数々の名前を残した姫君や女王様の伝記と名言集。
 どんな方がどんな困難に立ち向かって、どうなさったのか、その時の言葉と物語の綴られた絵本。
 確かにとても興味深くて、勉強になりますの。思わず読み耽ってしまいましたわ。
 本を抱えて、そのままお部屋まで読みながら戻ってしまうほど、面白い本でしたのよ。
 キールは、面白い本だって判っていてわたくしに渡したのかしら。
 本を読むより、書庫にはお昼寝に行っていたようなものでしたけど。あれから少しだけ、読書も楽しくなったんですの。
 キールのおかげって言えますわね。
 本当に変な人。
 口を開いて人を怒らせて。無愛想で取り付く島もなくて。慇懃無礼でわたくしを王女として立てもしない。
 ……でも本当は、アイシュに負けないくらい優しくて、でも、とってもぶきっちょさんでテレ屋さんなのを、わたくしは、知って、いますのよ。
 
 ですからわたくし。
 もっとキールが知りたいんですの。
 あの無愛想でつんけんした眼鏡の向こうに、何があるのかしら……
 まずは、少しでも本を読みましょう。
 あんまり馬鹿馬鹿言われては悔しいんですもの。
 あれからこの名言集のシリーズに嵌っていますのよ。
 わたくしらしく、少しずつ。
 キールに近づいていきましょう。
 どんな嫌味を言われたって、負けませんわ。
 ねばーぎぶあっぷ。ですの。
 がんばりますわ。





Fin

そらたさんの天空回廊に寄贈した作品です
キールディア……になってますかねぇ……(あくあフォントをお持ちの方は、もっと雰囲気が出ます)

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