Let's face the front
 白い手が陽光に翻る。
「で〜い! 大気に宿る精霊よ、我は怒りを胸に秘めし者! 汝が身体を糧にして,今こそ吾が手に具現せよ。怒りの雨を今降らせん! ファイアーレイン!」
 凛とした声が紡ぐ、凶暴すぎる言の葉。
 その声と意思に従う魔力が、あたり一面に火の雨を降らせる。
 最高だぜ。
 風を調節してこちらに被害が及ばぬようにサポートすれば、降り注ぐ火の粉を受けた連中が、瞬く間に燃え上がる衣服を、地に転がって消し止めようと大童になっていく。
「ナパーム弾♪ なんちゃってね」
 意味は判らんが満足そうだ。にんまり笑うその唇を、風と一緒に掠めとる。
「うきゅっ」
 白黒するでかい目玉に笑いながら、俺も自分の呪文を紡ぐ。
「慈悲なる緑の刃よ、其が腕伸ばし心を静めたまえ。永久なる繁栄を!」
 立ち上がる木の根に絡まって、火傷に呻く捕虜の出来上がりだ。
「一丁上がりってな」
 業と埃を払って振り向けば、不思議そうな茶色の目が見上げている。
「なんだ?」
 返ってくる台詞が振るってるなぁ。
「いゃあ、あんたの事だから、てっきり、風の刃で身動きできないくらいズタボロにしてからとっ掴まえるのかと思ってた」
 ……あのな、その身動きできないくらいにズタボロってのは、とっくにお前さんがしてないか?
 全身数十箇所の火傷で、完全に戦意を喪失している敵小隊を横目で見ながら、喉まで出かかった科白を飲み込む。
 うっかり言えば後が恐い。
 だからただ、笑って柔らかな髪をかき混ぜてやった。
「きゃん! あにすんのよ〜!」
 とたんに返って来る文句に笑い、俺は森の出口を指差した。
「んじゃ、次。行くか?」
「どんと来いよ♪」
 小気味良い返事に意気揚々と、足を踏み出す。
 負ける気がしねぇよ。
 ほんと。

fin

発掘品です。
いつ書いたのかも既に定かじゃない (Θ。Θ;A)゛アセアセ
ダリス戦役中の一こま……かな?(オイ)

プラウザを閉じてお帰りを