休日‐2 授乳中の母親ってのは、崇高な雰囲気すら持っていて、時々そうしたのが自分だと判っていても、何か置いていかれたような近寄り難さを感じてしまう。 だが、そのまま畳に大の字に寝っ転がって、あられもなく肌蹴た胸を放り出し、太平楽に、子供と一緒に大口開けてぐうすか寝ている様ときたら、俺が種でこれが畑なんぞという、実も蓋も無い言い方そのもののような気がしてくる。 まったく、こうなると色気もへったくれもねぇな。家の中だから良いようなもんだが。 母親をそのまま小さくしたような娘は、自分の分を飲み終えて、コピーそのものの格好でぐうぐう寝ている。見事に大小としか言い様の無い姿に、いつも笑いが込み上げてくる。 「むう〜〜」 反対側で、こっちは全然足りないとばかりに、出なくなった乳を捻くりまわしている息子は、嫌になるくらい俺に似ている。頼むから、性格までは似ないでくれ、というのは女房の科白。一応文句は言っておいたが、多少思い当たる節はあるから、深く追求するのは止めた。 「おいおい、あんまり乱暴にすんなって。いいか、これは俺のなんだからな。お前には貸してやってるだけなんだぜ」 遠慮会釈もなしに乳首を引っ張る手を外して、子供二人を育てている割には、形の崩れていない剥き出しのままの両乳を、下着で包んで服を整えてやる。横に置いてあったガーゼで乳首を押えるのも忘れない。 「な、良い旦那だろう?」 寝顔に嘯いてやると、にま〜〜と緩んだ笑いが返ってきてびっくりした。 起きてるのか? 「そのようかんあたしの・・・」 ・・・つくづく色気のねぇ女。乳放り出して寝こけていて、その寝言か?図太いっつーか何というか・・・ この度胸の良さに惚れたのも確かだし、恋だの夢だのなんて、ありもしない物でこいつを求めた訳じゃないが、こうまで見事に色気と縁遠いと、渇いた笑いを洩らすしかない。 ま、いいか。 色っぽい女、繊細で慎み深く、そのくせ裏で何考えてるのか判らない女たち。そんな女は食い飽きた。役にも立たないプライドと、見栄だけで俺に群がっていたあの連中に比べて、こいつはどれだけ光っていたか。俺と同じに、泥を被っても怯まない強さ、逆境に負けん気で立ち向かい、そのくせ身近な者、弱い者へ手を差し伸べられる優しさ。俺はその手に自分を委ねた。その光の中に、浸りたかった。 男なんて弱いもんだ。 一度その光に浸ってしまうと、失った時どれだけ脆いか、身をもって思い知った。 今こうやって、女への幻想なんてぶち壊す勢いで寝ているこいつが、どれだけ愛しいか、多分、こいつには一生わかんねぇだろうな。 面と向かって言ったって、きっとこう返ってくるんだろう。 『気っ障〜背中痒くない?』 ・・・ぜって〜言ってやらねぇ。 「まんま〜」 飲み足りなくて、不満そのものの息子が、しまった乳を引っ張り出そうと襟をかき回す。しょうが無いから抱き上げた。 「あのな、か〜ちゃんは疲れてるんだよ、お前等の子守りで。後は粉ミルクで我慢しとけ。作ってやっから」 俺のコピーと、よく言われる息子は、こんな親父でも好きらしく、抱いてやるとやたらに嬉しそうに笑う。 子供はそんなに好きな方じゃない。いや、無かったというべきだな。 今こうやって、手前ぇの息子を抱いていると、人並みに親心なんぞを持っていたんだと実感する。 女房の奴は、こいつの性格から、将来まで、よくまあ思いつけるなと感心するほど不安材料を並べ立て、最後に、この子達が決める事だけど、と締めくくる。 実際、今の俺達は不安材料しか持ってはいない。 クラインに無事に戻れるのか?この世界に一生居る事になるのか、まだ判らない。 この世界じゃ、俺に甲斐性無いしな。 よしんば家族全員で戻れるかすら保証は無い。 最悪、また引き離されてしまうかもしれない。そんなことを二度とさせる気は無いが、こいつが不安に思っているのは確かだろう。 子供に対しては、母親のように身を裂いて産んでいない分、父親は冷静なのだと思う。どんな道を選ぶにせよ、こいつらの人生だ。親ができる事なんて高が知れている。 食い物で身体を育て、知識で心を育てる。間違った方に進むのなら、殴ってでも引っ張り戻す。例え俺が間違ったとしても、女房は間違わない。 だから俺は安心している。 ああ、良い山の神を掴まえたもんだ。我ながら及第点だな。 「だ〜〜」 「ああ、判った判った」 さてと、こいつにミルク作ってやるか。この世界は便利なものがある。クラインなら乳母が必要な所だが。父親で事足りるんだからな。 なんにせよ、なるようになるさ。 ぐだぐだ考えるのは、俺達には似合わない。 そうだろう? メイ。 END ある現状に関する考察シリーズ いやあ、何というか、所帯染みてますな〜 ほのぼのと所帯しているシオンとメイ。何気にFUTUREのネタバレです(;^_^A
ある現状に関する考察シリーズ いやあ、何というか、所帯染みてますな〜 ほのぼのと所帯しているシオンとメイ。何気にFUTUREのネタバレです(;^_^A
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