猫耳
王宮からの帰り道、保護者とばったり遭って。
帰り道は一緒。
やれやれ…
説教されながら歩いていると、子猫が一匹、どぶに嵌って鳴いていた。
だから渋い顔する保護者は無視して連れて帰り、綺麗に洗ってあげたの。
泥の中から出てきたのは、ふわふわの白い毛皮。
思わず抱きしめたくなっちゃう。
ねえ、キール
この仔可愛いね。
「そうか?…野良だろう?」
ううん、首輪に迷子札ついてる。
住所は…読めないや…
「だから、絵本をしっかり読めって言っているだろうが。…貸してみろ」
なんて書いてあるの?
「住所は…王都の反対側だ。ここからだとずいぶんあるぞ」
迷子だよこの仔。
「迷子か…しょうがないな、連れて行ってやるか…」
うそ…
「なんだよ、その顔は?」
だって、キールがそんな事言い出すなんて…
「こんな仔猫を飼いだしたら、お前、課題なんか、手につかなくなるに決まってるだろうが。だから帰してくる」
あ、そう…
じゃあ、あたしも行く。
「好きにしろ」
二人で研究院を出て、てくてく歩く。
キールは相変わらずの仏頂面。
ま、いいや。
良かったね〜。仔猫ちゃん。もうすぐお家に帰れるよ。
そう言ってあげると、それまで怯えていた仔猫が、にゃあん、と鳴いた。
お家に帰れるってので、安心したの?現金なやつねぇ
あたしが笑うと、仔猫が喉を鳴らす。
う〜〜ん、ほんとに可愛い。
あれ?キール、何してるの?
「治癒だ、この猫、怪我しているからな」
そう言って、小さな声で呪文を唱える。キールの得意な治癒魔法。
仔猫の足の裏にあった、小さな擦り傷が治っていく。
優しいねって言ったら、赤くなってうるさがる。
最近わかってきた、こいつってば、かなりの照れ屋だ。
それから歩きながら、また呪文を唱えて、仔猫の頭を撫ぜている。
なんでそんな事してるの?
「怪我をした後は、生命力のバランスが崩れるんだ。だから補助魔法で安定させているのさ」
ふうん、いつもあたしにしているようなもの?
「そうだ」
ふうん…人間だけじゃなく、動物のもできるんだ。
「ああ、基本は同じだからな。人間も、動物も、植物もだ」
へ〜、何でもできるんだね。
「魔法に変わりは無いからな……俺を誉める位なら、お前も早く身につけろ。何の為に課題をやらせていると思っているんだ?」
うぐっ判ってるわよ。
あたしだって、日々精進を重ねてるんだかんね。
「そのわりには、成果が上がっていないな」
くそう。
仔猫は腕の中出で丸くなって眠ってる。
白い毛皮を撫ぜると、ビロードみたいにつやつやしてる。
なんだか、帰すのが惜しくなってきちゃったな…
でも、この仔は帰りたがってる。
ちょっと寂しいな…
でも、しかたないか…
ねえ、キール。
「なんだ?」
猫の耳って、犬の四倍聞こえるんだって。
「ほーう?」
目はね、止まってる物より動いているものの方が、見えやすいんだって。
「なるほどな」
でもね、猫の耳は、聞きたい音しか聞かないんだって。
目もね、見たいものしか見ないんだって。
「器用だな」
ねえ、キール。
「ん?」
猫の耳って、面白いね。
「お前みたいだな」
え?
「お前は自分の好きな事しか見ないだろうが。好きな事しか、耳に入らないみたいだしな」
それってば、あんまりでないかい?
「そうか?」
花の乙女を捕まえて、ひどい言い草だわよ!!
「だがな、それは事実だろう?俺には、姫にもシルフィスにも、猫の耳と目が付いていると思うけどな」
え〜〜〜っ。ディアーナとシルフィスにも?
あ、でも可愛いかも…
「あのな…」
これって、いつもの嫌味?
「お前達は、今。これから成りたいもの、やりたい事を探しているからさ」
何それ?
「興味のあるものは一生懸命。興味の無いものは、ちょっと苦手。そういうの無いか?」
うっ言われてみれば…
「俺はな、それでもいいとは思ってる。俺もそうしてきたから。だが、時期に、自分のなりたいもの、したい事が決まってくると、それの為に一生懸命になるのさ。それの為に、苦手なものでも勉強するようになる」
ふうん…
「仔猫の目と耳は、見たいものと、聞きたいものだけを、追いかけるけどな、成獣になれば、身を守るために、見ないといけないものを見て、聞かないといけないものを聞くようになる。それと同じさ」
そんなものなのかなぁ…
「お前だってそうだろう?こんな物憶えの悪い奴が、上級魔法のファアーボールだけは出せるんだからな。好きな事っていうのは、そういう事だ」
言われてみれば。
…って、誉めてるの?けなしてるの?
「これで課題と読み書きを頑張ってくれればな…」
あははは・…相変わらずきつい事…
「着いた様だな」
街外れのちょっと大きなお家。
ノックして、家の人に仔猫のことを言うと、大きな音がして、誰かが走ってくる。
家の奥さんが飛んで出てきた。
仔猫ちゃん、お別れだね。
奥さんにに抱きしめられて、幸せそうな仔猫ちゃん。
バイバイ仔猫ちゃん。もう迷子になっちゃ駄目よ
そう言ってあげると、仔猫はにゃんと鳴いた。
一番星が光る空の下。
仔猫と飼主さんは、嬉しそうに家の中に入っていった。
げ、もう門限過ぎてるよ
「ああ、そうだな」
どうしよう、締め出されてるんじゃない?
「俺が断りを入れてきてある」
ほんと〜、よかった。
さすがキールだね。
ついでに、どこかで晩御飯、食べてく?
「そんな暇は無い」
だってお腹空いたわよ。
今から帰ったって、研究院の食事の時間、終わってるじゃない。
「それもそうか…」
あ、ねえ、アイシュんとこに寄ろうよ。
美味しいご飯作ってくれるよ。
「兄貴のとこか?」
嫌そうな顔しないでよ。第一、あんたの家でしょう?
「ああ」
さ、行こう行こう♪
ご飯だご飯だ♪
「やれやれ…帰ったら、今日の課題済ませろよ」
はーい判ってま〜〜す。でも、まずはご飯!!
「…だから、仔猫の耳だってんだよ…」
いつもの会話
いつものやり取り
かくして日々は過ぎていく
―END―
言い訳
すみません、ぜんぜん甘くないです
イメージは、兄妹か、先生と生徒……(実際『地獄先生ぬ〜べ〜』がベースだし……(^◇^;)
YAHOのキルメイってこんなもんです。